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ロシア/ソ連のミサイルの呼び名が色々ある理由

最近ポーランドにS-300の5V55?ミサイルが落っこちてきて死人が出る大事になってしまった。

S-300
*1

www.nikkei.com

www.afpbb.com

報道によると、ウクライナが発射したものが逸れて落ちてきたという説が有力になってきている。

そういうことがあったので改めて東側のSAM地対空ミサイルについて調べていた。自分はDCS Worldをやっているので、ある程度東側のSAMのことは知っている。 SAMとは、要するに地表から飛んでいって空にあるなんかを破壊するミサイルのことである。

で、調べてみると、SA-2ガイドライン(S-75)とSA-11ガドフライ(9K37)とでは全く別の系統の型番が付いている。これはどうしてだろうか。

tl;dr

管轄や兵器の性質によって与えられるコードが異なる。GRAUインデックスを使うと通ぶれる。

ロシア・ソ連ミサイルの名付け

そもそもロシア・ソ連ミサイルはどのように名付けられているのかというと、いくつかの方法が併存している。例えばちょっと前にマレーシア航空を撃墜したSA-11を例に挙げる。

SA-11
*2

ja.wikipedia.org

この「ミサイル」はいくつかの名前で呼ばれている:

  • SA-11
  • ガドフライ
  • ブーク(ブク)
  • 9K37

これらは全て同じものを指しているが、命名主体やその態様が異なっている。どういうことかというと、

  • SA-11
    • 米国防総省によるDoD拡張コード。SAはSAMを指している。「SA-11ガドフライ」までまとめてNATO報告名と呼ばれることがあるが、本来NATO報告名は「ガドフライ」のみ
  • ガドフライ
    • NATO報告名「虻」。NATO報告名とは、NATOが東側兵器を分類するために与えたコードネーム。
    • 地対空ミサイルは全てGから始まる名前が充てられる(Gopher, Guideline, Gauntlet, etc.)
  • ブーク
    • ロシア語の愛称、通称。Букはブナの木の意。アメリカ人や日本人が「MIM-104」のことを「パトリオット」と呼ぶのに対応する。
  • 9K37
    • GRAU(ГРАУ)インデックス。後述。

というように別々の意図をもって別々の主体が命名しているのである。

ちなみにNATO報告名については、なぜかロシア語版Wikipediaが異様に詳しい。

ru.wikipedia.org

GRAUインデックス

先程述べたように9K11はGRAUインデックスである。GRAUとは、ロシア連邦国防省ロケット・砲兵総局であり、その仕事の一つとして、ロケットなどの兵器にコードを割り振るというものがあり、兵器に管理上の名前を与えている。これがGRAUインデックスと呼ばれる。ロシア・ソ連の地対空ミサイルは、おおむねこのGRAU(ГРАУ)インデックスが割り振られている。

小さな構成要素単位でインデックスが割り振られるため、兵器専門家はこのインデックスを参照することが多い(例えば、ミサイルの発射装置と弾頭とでは別々のコードが充てられる)。

ja.wikipedia.org

ru.wikipedia.org

GRAUインデックスは体系化されている。9K37を例に取ると、

  • 9
    • ミサイル・ロケット兵器
  • K
    • ミサイル・ロケットシステム
  • 37
    • 通し番号

となる。なので9から始まっているロシアの兵器はだいたいなんらかのロケットだと見当が付くようになっている。同様に、2から始まると砲だなと分かる(例: 2B14迫撃砲)。合理的。

GRAUインデックスがない場合

んで、ここからが本題なのだが、このGRAUインデックスが存在しない兵器がある。例えば、U-2を撃墜したことで知られる長距離地対空ミサイルであるNATO報告名SA-2「ガイドライン」にはソ連ではS-75(キリル文字ではС-75)というコードが与えられているが、これはGRAUインデックスではない。

ja.wikipedia.org

ja.wikipedia.org

また同様に長距離地対空ミサイルである、冒頭に登場したS-300もまたGRAUインデックスを与えられていない(ちなみにS-300は役割的にS-75の遠い子孫にあたる)。

で、調べてみたところ決定的な理由が分からなかった。ゆえにこれは推測でしかないのだが、これにはいくつか理由があると思われる。

  • S-75やその系譜であるS-300などはソ連陸軍ではなくソ連防空軍が管轄する兵器であったため、コードが与えられなかった
    • 防空軍とは空軍とは独立したソ連の組織で、ソ連に侵入する敵機の迎撃を専門に行っていた。きわめて広大な領土というソ連の特徴に適合した形である。のちに解体され空軍に編入。前線の空と広大な領空との管轄が分かれていたのである。
  • 長距離高高度防空兵器という性質上、ミサイルとひとくちに言っても単一の車両や装置でどうこうできる代物ではなく、レーダーや通信設備、発電機などの多数の構成要素が混在するコンプレックスであり、これらをまとめた単一のGRAUインデックスを与えられなかった
    • ちなみにS-300に搭載されるミサイルである「5V55」はGRAUインデックスである

どなたか事情を知っている人がいたら教えてください。

結語

こうした命名事情を知っていると、現在進行中の戦争の情報をより正確に理解することができるでしょう。

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