Lambdaカクテル

京都在住Webエンジニアの日記です

Invite link for Scalaわいわいランド

生成AIがWeb上のコンテンツを読めるようになる鍵は暗号通貨によるマイクロペイメント(かもしれない)

こういう記事を読んだ。

fujii-yuji.net

僭越ながら意訳すると、

  • robots.txtでLLMからのアクセスをrejectするコンテンツプロバイダが増えている(はてなブログも現状はrejectしている)
  • なぜrejectするのかというと、負荷がかかる上に収益を奪われる形になるから
  • しかしそうなるとLLMは古いコンテンツしか参照できない
  • 情報を発信している人が対価を得られるような健全なエコシステムが必要なのではないか

この記事では、暗号通貨で面白いことできるんじゃない?ということを話す。私はAIの専門家でもないし、暗号通貨に関してもいろいろ弄っている程度の知識しかないので、色々な意見が聞きたい。

マイクロペイメントとその障壁

現在は読める/読めないという二項対立的な対応をすることしかできないが、もうすこし柔軟に、「相応の対価を支払ってくれたら閲覧を許可する」という挙動を考えるのはどうだろう。例えば、この記事が読みたければ10円くらい払ってほしいけど、どうですか?とコンテンツプロバイダ側がオファーして、(ユーザに委任された)LLMがそれに乗って決済を実行し、決済が確認されたコンテンツプロバイダは正規のコンテンツに誘導する、という仕組みだ。つまり、ユーザはLLMに500円くらい入った財布を預けて、お使いに出す、という格好だ。

この手のごく少額の決済はマイクロペイメントと呼ばれている。

これを実現するにはいくつかの障壁がある。

まず、支払いプラットフォームを統一できないということ。LLMはクレカで支払いたいけど、コンテンツプロバイダはPayPayで払ってほしいようだ、ということが起こるのは容易に想像がつく。大統一プラットフォームを作ることもできるだろうが、するとそのプラットフォームがショバ代手数料を取るようになって面倒なことこの上ないだろう。

次に、先程の問題とやや重なるが、決済にバカにならない手数料が発生すること。決済プラットフォームも商売なので手数料を取る。1決済くらいならそれほど問題にならないが、10円の決済のために5円の手数料を取られたり、それをいくつも繰り返すとなるとたまったものではない。

最後に、本当に決済されたのかをmachine-readableな形で即座に確認する方法がないこと。これが達成されないとコンテンツプロバイダがコンテンツを提供するかしないかを判断できない。

暗号通貨

さて、話は変わる。ビットコインを筆頭にEthereumといった色々な機構が存在する暗号通貨の世界である。

Web3という壮大な構想からぶち上げられた暗号通貨だが、今のところデジタルおはじきを高値で投機するプラットフォームになっており、キャズムを超えたかといえば微妙な立ち位置にある。PayPayのがよっぽど流行っている。しかし暗号通貨の特性が、この「AIに記事を買わせるお使いをやらせる」という目的にマッチする可能性がある。

まず、暗号通貨の取引は共通のプロトコルに則って行なわれ、トランザクションを実行できる点。Ethereumというブロックチェーン技術では、EVMという仮想マシンが動くという機構になっている*1ので、割と複雑な取引もこなすことができる。このアドレスにいくら入金してくれたら、この記事の閲覧権限に対応するトークンを送りますよ、まとめて買ってくれたら安くしますよ、という契約がオープンな形で可能になる。これはLLM(とそれを仲介するMCP、そしてそれに接続されたウォレット)によって十分に自動化できる。

決済手数料についてだが、最近はEthereumやその上で動くL2と呼ばれる効率化レイヤーが存在しており、1トランザクションあたりの費用は小数点円レベルのものが存在する。既存の決済プラットフォームと比べると、格安で取引が可能になる。

tokentool.bitbond.com

しかもL2は速い。「ふつうの」Ethereumはトランザクション完了までに10秒はかかるが、L2を利用すると1秒程度で決済が完了する。

例えば上掲のデータによれば、執筆時点でArbitrumというチェーンのトランザクション費用は0.0014ドルとなっている。他にもPolygon zkEVMなどのL2が存在する。複雑なトランザクションを発生させれば回数分の費用がかかるが、それでも格安だ。面白いのは、「おカネを出すと優先的にトランザクションが処理される」という機構が最初からあることだ。そんなに急がないなら節約する、という戦略をとることができ、柔軟に利用できる。

そして、トランザクション情報は全て公開されるため、トランザクションが履行されたかを確認することは非常に簡単だ。例えばEthereumのトランザクション情報は以下のサイトから全て検索可能だ:

https://etherscan.io

このように、「実体のない仮想的な概念に対してしかあまり使えない」という暗号通貨の欠点が、そのまま「実体のない仮想的な概念である『記事の閲覧権』の取引」にマッチするように思える。

もしうまいことやれたら?

この仕組みがもし実現したらどのような世界になるだろう。ちょっとしたシナリオを考えてみたい。

  • ユーザはLLMに100円分の決裁権を与え、調べ物を依頼する。ここからは完全にユーザの手を離れる。
  • LLMはウェブを検索し、目当ての記事を発見するが、有償で閲覧できる旨がrobots.txtに記されている。
  • LLMは.well-known/purchaseにアクセスし、記事の価格や決済先の情報を入手し、購入の是非を自律的に判断する。
  • LLMは記事を購入することを決断した。指定されたブロックチェーンを利用して、トランザクションを開始する。
  • トランザクションが成功し、LLMは3円を支払った代わりに購読トークンを得た。
  • LLMは購読トークンのIDを使って、閲覧リクエストをコンテンツプロバイダに送る。リクエストはウォレットの秘密鍵で電子署名されており、トークン所持者による提示だということがわかる。
  • コンテンツプロバイダは電子署名を検証し、LLMにコンテンツをレスポンスする。

もちろん乗り越えなければならない様々な問題があるだろうが、「AIに記事を買わせる」ことは、インターネット上で全てを完結させられ、仕組みが分散しているという、ブロックチェーンやインターネットの思想にベストマッチした数少ないアプリケーションではないだろうか。

余談

ちなみにAIと暗号通貨で面白いことをする試みは他にもあって、色々なLLMをスイッチして使えるようにするOpenRouterというプロダクトでは、LLMを使うためのトークンを暗号通貨で購入できるようになっている。全てがオンラインで完結するので、こうした面白いことができるのだ。

openrouter.ai

*1:Ethereum上では、各種の独自トークンがEVM上のプログラムとして実装されている。

★記事をRTしてもらえると喜びます
Webアプリケーション開発関連の記事を投稿しています.読者になってみませんか?