友達に本を貸すということは自慢できる行いだ。そこには物語の受け渡しがあり、それ自体が小さな物語だ。他人が書いたはずのものなのに、自分の内心を読まれてしまう気恥ずかしさと、見えない秘密を共有するささやかな楽しさをもたらしてくれる、優しくてへんな営みだ。そんなことを許してくれるような友達が僕にも何人か居るのはグッドラックだと思う。
そんな友達たちに一年ぶりに会って、大学の向こうの世界の話をした。仕事はどうだろうか。最近何をしている?自分は何をしている?といったふうに。われわれが飛び込んでいく社会には名前が無い。高校、大学、サークルには名前があるが、その向こうの社会には「社会」という名しか与えられていない。広く混沌としていて曖昧で生きている世界と対峙しなければならない。そういった不安や緊張感をなんとなく交換できた。友達と話せて心の支えになりそうだ。
今回は一方的に喋りすぎてしまって、あとから恥ずかしくなった。もしかしたら得をしたのは自分だけかもしれない。それでは悲しいので、また機会があれば聴く側になれたらいいなと思う。
貸した本が返ってくるのはまだ先で良いような気持ち。