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『生まれてきたことが苦しいあなたに』読了

id:pndykにお勧めしてもらった一冊。タイトルがタイトルだが啓蒙本でもスピ本でもなく、シオランというルーマニア生まれでパリで頭角を現した哲学者、思想家、作家の解説本にあたる哲学書である。もう今時希死念慮は息を潜めているが、この書籍で解説されている「中途半端な」哲学者であるシオランの、徹底的に人生や世界を憎みつつも、かといってそれに気炎を上げるのはこの世界に加担することになるからどうにもならない、自殺は結局やらない、といったどうしようもない感じがまた共感を誘うのであった。

二部構成となっており、一部では彼の思想の解説が行われ、二部ではそれに対する批判が行われる。この世界はクソ!苦しみだけはリアル!元気な奴が世界に混沌をもたらす、何もしない奴はもたらさないから何もしないほうがいい、人をやめろ、生まれるなというのが彼の主張の大綱であり、そのために生の否定を追求していくのだが、生を否定することの不可能性に難儀する、といったところ。

彼は結局天寿を全うしてしまうのだが、彼は自殺についてはまあ肯定的な立場で、自殺はこの世界に否を突きつけられる最高の力だとみなしている節があるし、また実際に死なないにしても、自殺を遅延しながら生きる、つまりいつでも自殺できる事を念頭において暮らしていると、人生は死ぬまでの余生に過ぎないという視点を得ることができ、自分に縛られずに結果的に生きられるようになる、生とは偶発的に生じたものにすぎないのだから、という効能を強調している。

シオランは不眠であった。深夜に街角に繰り出すこともしばしばであったという。実家のベッドでウンウン言いながら「こんな人生最悪だ」(意訳)と騒いでいたところ、母ちゃんに「じゃあ生まなきゃよかったわ」(意訳)と言われてしまう。すると彼は「そっか、最初から人生に意味も価値もないのだ」ということに気付き、救いを得てしまう。母も母である。どういう家庭なんだ。それはともあれ、彼は一生病気に付き纏われており、それが彼のペシミズム、反出生主義を育て上げたといってもよい。であるからこそ彼は、一切の感情を葬り去り、一切の実在性を否定することで、僧侶さながらに人生から解脱する事を思い立つも、「じゃあこの病気の苦しみは実在しないとでもいうのか」という二律背反にぶつかってしまい、結局苦しみの実存を採ってしまう。それが中途半端な思想家である所以である。彼は解脱に失敗し、生の否定という自分の思想を生きながらに貫徹することができず、そこそこの数の本を出して(彼はこの世における成功を忌避していたはずなのだが)死んだ。

ちなみにかれは評論、解説本の類を嫌悪していたという。何も自分で書けない奴が手を付ける卑しい仕事と見ていたきらいがあるようだ。確かにそういう気もしているが、今こうして評論の感想文を書いている自分もまたそうなのだ。

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